ワインの世界を旅しよう

特別な日に高級レストランで飲む高価なワインも良いけれど、気の合う仲間とワインとチーズを持ち寄ってのホームパーティーや、旅先でふと立ち寄った小さなレストランで、思いがけず美味しい料理とワインに出会うように、もっと気軽にワインを楽しもう。そして人生を豊かにするワインの世界へ旅しませんか?

旅とワインは人生を豊かにする

実ったぶどうの収穫時期を見極めるのも生産者の腕の見せどころ。(写真はシャルドネ種) 旅と酒はとても相性が良い。一日の観光を終えて、旅仲間と乾杯する冷えた一杯のビール。南の島で沈む夕陽を眺めながらのカクテル。温泉宿で酌み交わす日本酒。旅先のベッドの中で日記をしたためながらナイトキャップに嗜むブランデー。旅の供たる酒は数々あるが、その土地の料理を引き立てるのは地元産のワインだし、旅の最後をシャンパンで乾杯したりと、ワインほど旅に彩りを添える酒はないだろう。

旅とワインには共通点が多い。見知らぬ土地を訪れ、大自然に抱かれ、そこに暮らす人々と出会い、歴史や文化に触れるのが旅の楽しさや醍醐味だ。ワインは畑で実ったブドウを醸造して作られる。同じブドウ木から栽培されたブドウでも、土壌や畑の日当たり、その年の日照時間や降雨量、醸造方法が異なればまったく異なった味のワインに仕上がる。そして、同じワインでも熟成が進むにつれて、味や色調がゆっくりと変化してゆく。

旅もワインもその時だけのワン&オンリーの出会いだ。そして、天と地と人と長い歴史に培われた文化が織り成すワインを飲むことで、居ながらにしてその土地を実際に旅しているような感覚すら楽しむことができる。

五感を刺激する旅が楽しいように、五感で味わうのがワインの楽しさだ。人生に彩りを添え、豊かにしてくれる、それが旅とワイン!

ワイナリー巡り、その前に・・・

ワイナリーではぜひ気軽にテイスティングを…有料試飲コーナーでは極上のワインが味わえる。 『ボルドー五大シャトー制覇』とか『ミシュラン3つ星レストランでのワインの夕べ』など、ワインをテーマにした旅にはとかく堅苦しいイメージがあるが、本来ワインはもっと気軽に楽しむ飲み物だ。

その土地で採れた食材をその土地で作られたワインと一緒に食する。シンプルにして最高の組み合わせ。それはイタリアのトスカーナ地方の小さな村を旅した時のこと。歩き疲れた夕暮れに、食欲をそそる香りに誘われて石畳の路地に入ると、一軒のトラットリアがあった。ふらりと店に足を踏み入れたものの、地元の人でいっぱいの店には英語のメニューはおろか、片言の英語すら通じない。隣のテーブルの料理を指差して、注文を済ませたことにする。しばらくすると料理と赤ワインのグラスが一緒に運ばれてきた。そう、隣のテーブルには手打ちパスタの一皿と一緒にワイングラスが置かれている。常連客が注視するなか、パスタを口に運び、ワインを一口飲む。どちらも絶品だった。夢中で食事をしていると、いつの間にか隣のテーブルのおじさんが空になったグラスにワインを注いでくれる。ここはマンジャーレ、アモーレの国、イタリアだ、断る理由などない。「なっ、このワインうまいだろう!」と言う(想定)おじさんに、「とても美味しい!」と(日本語で)応える。おじさん夫婦と意気投合?!して分かったのは、なんと、おじさんはそのワインの醸造所のオーナーだったのだ。翌朝、好意に甘えておじさんのワイナリーを訪れた。小高い丘の上にあるワイナリーは家族経営の小さな醸造所だった。手入れが行き届いたブドウ畑を見て、地下のセラーを案内してもらう。興に乗ったおじさん(オーナー)が自慢のヴィンテージを開ければ、奥さんが仕方ないわね、と言いたげに極上ワインにぴったりの自家製チーズを納屋から持ってきてくれる。十数年前のこうした偶然の出会いをきっかけに、旅先でのワイナリー巡りがはじまった。

ちなみにそのワインは、その時以来飲んでいない。小規模なワイナリーで醸造されるワインは地元や国内だけで消費されてしまい、海外に出回ることはほとんどないからだ。おじさん夫婦に再会するにも、あの時のワインを飲むにも、またトスカーナに行くしかない。旅とワインは一期一会の縁なのだから。

ワイナリー・ツアーに行こう!

ワイナリーツアーではワイン生産工程の説明を聞きながら、ワイナリーの内部を歩くことが出来る。 欧米ではワイナリー巡りは休暇の過ごし方のひとつとして昔から親しまれている。夏のバケーション・シーズンになると、ブドウ畑が点在するボルドーのワイナリー街道沿いに地図やパンフレットを片手にシャトーを訪れる人たちを多く見かける。どの家族やカップルもほろ酔い気分で楽しげだ。

ところが最近、どの国でも飲酒運転の取り締まりが厳しくなり、試飲を楽しみながらのワイナリー巡りが難しくなっている。運転手に遠慮しながらのテイスティングでは美味いわけはないし、なんといっても運転手本人が気の毒だ。それなら、ワイン好きな気の合う旅仲間と何の気兼ねもなく試飲を楽しめるワイナリー・ツアーがおすすめ。フランスでは地元の観光局が企画した、ワイナリーを巡るツアーを夏季には毎日行なっているし、カリフォルニアのワインカントリーで知られるナパ・バレーではぶどう畑の中を「ワイン列車」が走り、車内でワインのテイスティングや食事もできるし、サンフランシコからの日帰りや一泊ツアーも人気が高い。

青空の下、どこまでも続く早春のぶどう畑。ワイナリー巡りでは四季折々の風景も楽しもう。 フランスの銘醸ワイナリーを巡り、オーベルジュに宿泊してフランス料理とワインのマリアージュを堪能する本格的なワイナリー・ツアーもあれば、観光の合間に休憩を兼ねて、景色の素晴らしいワイナリーに立ち寄るような気軽な楽しみ方もある。そして、どのワイナリーを訪れても、その土地に暮らし、自然と向き合い、丹精を込めてワインを作る人たちに出会える。

ブドウ畑は季節を感じる場所だ。ブドウの木に若葉が芽吹く春は、草原のように爽やかなソーヴィニヨン・ブランを。ブドウの実が成りはじめた暑い夏は、きりっと冷やしたシャルドネがぴったり。収穫を待つばかりの秋には、ふくよかな果実味と柔らかい酸味のメルロで夜長を過ごし、 ブドウの木を剪定する寒い冬には、スパイスを効かせたホットワインで身体を温める・・・。

訪れる季節が違えば、ワイナリーもその時々で異なった表情を見せてくれる。自然と人が育むワインを楽しむ旅に出かけよう。

ワイナリー巡りのその後で

懐かしいワインボトルに出合ったその時、造り手の顔やセラー、そしてワイナリーの風景が蘇る。 ある日、酒屋の棚で2000年のブルゴーニューワインに目がとまった。一般的に2000年のブルゴーニュー・ワインは天候に恵まれず、バッドヴィンテージ(不作の年)とされており、普通ならあえて購入しないのだが、この年は初めてブルゴーニューを旅した記念の年だった。他のヴィンテージに比べて格安で買い求めたボトルを自宅に持ち帰り、グラスに注ぐとふわっと立ち上る香りとともに、収穫前の雨の中、ブドウ畑でもくもくと作業を続けるピエールの姿が思い浮かぶ。懐かしい旅を思い出しながら、澄みわたる青空のような瞳のピエールの笑顔を見に、また旅に出たくなる。こんな風に旅を追体験できるのもワイナリー・ツアーの楽しみのひとつだ。

反対に、見たことも聞いたことないもワインの洒落たエチケットに魅かれて、ラベル買いをすることがある。遊び心にあふれたラベルを裏切らない個性的な味わいのワインに出会うと、どんな畑でどんな人たちがこのワインを作っているのだろうか・・・と想像が膨らむ。こうしてまだ見ぬ土地を思ってワインを飲みながら、安楽椅子旅行を楽しむのも一興だ。

日々の暮らしのシーンを彩るワインの世界を旅しよう。

鈴木真里

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